等身大の王が自信を取り戻していく物語「英国王のスピーチ」
「英国王のスピーチ」は現在の英国女王エリザベス2世の父であるジョージ6世(コリン・ファーズ)を主役にした歴史ドラマ。吃音障害を抱えた内気なジョージ6世が、密かに治療を依頼することになった言語療法士ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)の助けを借りて、障害を克服するまでを描いた映画です。
冒頭、大衆の面前でうまくスピーチができずに恥をかく主人公。とても辛い場面ですが、それ以降の治療の場面はとてもコミカルなやりとりで抱腹絶倒です。そして望まない国王に就任することとなり、第二次世界大戦開戦にあたり、危ういながらも自国民を勇気づけるスピーチを行なう感動のラストまで、飽きさせることはありません。その演出のバランスが見事です。
「英国王のスピーチ」は、第83回米アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、そして脚本賞を受賞しました。予備知識なしで観ましたが、アカデミー賞受賞もうなづける作品でした。監督のトム・フーバーはまだ若いですね。
主人公が英国王といわれると、自分とは身分違いでとても感情移入できない映画のように思います。しかし、もともとジョージ6世は兄王子のある弟であり、本人も王座を望んでいませんでした。
そのため本編でも等身大の一人のおとなしい人物として描かれており親近感が湧き、自信を取り戻していく様は、見ている者を勇気づけます。何よりコリン・ファーズの自然な演技が素晴らしいです。役者として、うまくしゃべれな人を自然に演じるというのはとても難しいと思いますが、痛々しい感じてはなく滑稽でもなく、自然に演じきっています。
スピーチ矯正の専門家であるライオネルと信頼関係を築き上げていく過程の脚本も見事でした。途中で二人が喧嘩して、終盤に関係を修復して困難に打ち勝つというあたりもベタですが効果的でいやらしくない展開になっていました。
個人的には戦前の英国の街並みを美しく再現している点や、美しいボケを用いたカット割りもポイントが高かったです。
あと、チャーチル役のティモシー・スポールのインパクトが強かったですね。彼は「ラストサムライ」にも出演して日本語を話していましたね。
そして、楽曲を手がけているのはこれまで『真夜中のピアニスト』や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』などで評価の高いフランスの Alexandre Desplat。サウンドトラックには未収録ですが本編ではベートーヴェンやモーツァルトなどクラシック曲もふんだんに使われていて、音楽もとても楽しめました。
クライマックス、ベートーヴェンの楽曲がかかるときにライオネルが指揮者のように見える演出など、こまかい部分も作り込まれていて楽しいですね。
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