『竹内敏信写真展 日本の桜』ミュゼふくおかカメラ館
竹内敏信氏は、私が高校時代に憧れた風景写真家だ。富士山や桜など日本の美しい風景をテーマにたくさんの作品を発表してきた竹内氏。私もフジクローム Velvia や Provia を用いて真似てみたことを思い出す。
『竹内敏信写真展 日本の桜』がミュゼふくおかカメラ館で開催されていた。春も終わりかけの5月最終週にようやく訪れることができた。
竹内氏は様々な風景を切り取ってきた。しかし今回の展示は桜一色だ。桜は春の訪れを実感できる明るい心をもたらすもの。そしてあっという間に散ってはかなさを感じさせるものでもある。
この写真展は全国の桜の写真が集められている。しだれ桜や、八重桜、エドヒガンなど様々な桜を堪能できる。構図もこだわり抜いていて、電柱や電線を入れないことはもちろん、桜の木にぼんぼりがついていればそれも避けて望遠レンズで木の上部だけを切り抜くこだわりようだ。フィルムは Velvia だけでなく Fortia なども使われているようだ。
見応えがあったのは岡山県真庭市の醍醐桜に、北海道日高町のエゾヤマザクラなど。福島県魑魅岡町の宝泉寺にある二色のしだれ桜はコントラストが美しい。富山の向野のエドヒガンは私も訪れたことのある名木だ。
親鸞はわずか九歳で出家を志したときに、散る桜を観て無常を感じ「明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは」と詠んだ。散る桜ははかない人生の象徴である。
竹内氏が「花は一瞬を生きて、たった一日だけ絢爛と咲いてくれる。そんな桜と刹那の対話ができるのは、写真のおかげに違いない。」と言い残している言葉が掲げられていた。まさに写真は時間を切り取り、儚いものを残すことで、対話ができる芸術なのだと教えてくれる。
残念ながら写真展が始まる少し前の2022年の2月27日に亡くなってしまった竹内氏。享年78歳。存命であれば今春の新作も展示されたのかもしれない。晩年の竹内氏をテレビで観たことがある。車椅子生活ながらアシスタントを引き連れて撮影を続けていたのをふと思い出した。
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