丸田祥三さんの裁判の残念な判決

2010-12-22 01:32

廃墟写真家の丸田祥三さんが、小林伸一郎氏を訴えていた裁判の判決が12月21日に出ました。結果は丸田さんの請求棄却という全面敗訴でした。予想の範囲内とはいえ残念な結果です。

この裁判で盗作ではないかと訴えていた写真一つが、次の丸山変電所の写真です。

丸田祥三と小林伸一郎の写真比較

asahi.com の記事によると被写体の選択は表現として保護されず、写真の印象が異なるとのこと。

 「廃虚写真」で知られる写真家の丸田祥三氏が、自分が撮影した変電所跡や鉱山跡をまねた写真集を出版されて著作権を侵害されたとして、写真家の小林伸一郎氏に約630万円の損害賠償や販売差し止めを求めた訴訟の判決が21日、東京地裁であった。大鷹一郎裁判長は「被写体の選択はアイデアであって表現自体ではない。写真全体から受ける印象は大きく異なる」として請求を棄却した。

また、時事通信の記事によると、「写真全体の印象」は白黒とカラーの違いということです。

大鷹裁判長は、丸田氏側が被写体や構図をまねされたとする作品5点について、「被写体の選択はアイデアであって、表現それ自体ではない」と指摘。「白黒とカラーといった違いがある。写真全体の印象は大きく異なる」と述べた。

白黒とカラーと違うから盗作には当たらないというのは小林氏側の主張でした。判決はそれをほぼ踏襲する内容となっており残念です。趣味として写真をたしなんでいる人ならば言わずもがなですが、カラーネガからモノクロプリントしたり、モノクロの作品に着色することなどはよくある話です。そのようなことで意図的な模倣が許容されてしまうのであれば、写真の著作権保護は抜け穴だらけとなってしまうでしょう。

個人的には裁判という土俵で戦う上では、丸田さんの主張に多少無理があったと思います。おそらく丸田さんは計算をせずに素直に自分の意見を出していたのだと思います。だから一般の人は丸田さんに共感できても、一般人とは感覚の異なる司法界の人たちからすると共感を得られなかったのでしょう。

ディズニーのように、著作権侵害に対して常に厳しい姿勢で臨んでいないと、パクられたときに裁判で勝てません。一方で丸田氏は、漫画などで作品がトレースされた際には権利侵害を訴えていませんでした。これは丸田さんとしては実害がないからだということですが、普段から権利を守る行動をしていないと裁判には不利になると聞いています。一般人の感覚と外れますが、司法の世界の感覚で戦っていかないと、控訴しても勝てる見込みは少ないのではないでしょうか。

本来、日本は判例主義ではありません。ですから今後も模倣写真の裁判はそれぞれが単独で裁かれるはずですが、実質的にはこの裁判の判例が確定してしまうと参考に取り上げられることになりそうです。一方で、丸田さんが勝訴した場合、かえってその判例を悪用する人も出てくる可能性もありますので、どちらが望ましいかは一概に言うことができません。

そもそもこの問題は、小林伸一郎氏が(事実がそうであればですが)「丸田さんの作品を参考にしました。」と一言認めれば済んだ話なのです。冷静に考えれば、そこに写真界の未来を託してしまう必要はないのかもしれません。

今後も裁判で丸田さんが疲弊してしまうよりも、新しい作品や写真集・書籍の出版に注力してほしいと思います。ただ、丸田さんが控訴して戦いたいのであれば、私も一ファンとして応援していくつもりです。また、丸田さんが名誉毀損などで逆提訴される可能性も念頭に置いておいたほうがよいでしょう。

棄景V 丸田祥三

今後どうなるかわかりませんが、動向には引き続き注目ですね。

なお、地裁判決後の丸田祥三さんのコメントは Ustream で中継され現在アーカイブを見ることができます。いつ消されるかわかりませんのでお早めに視聴をどうぞ。ましたが現在は見ることはできないようです。

2012年3月23日追記

この裁判は高裁でも丸田さんの敗訴となりましたが、その後上告されていたようで、最高裁でも敗訴となったようです。

判決を読んでいないので分かりませんが、一審と同じ主張を続けていたのであれば、もとより厳しかったと思います。

その一方で、丸田祥三氏は最高裁判決を待たずに、写真集を立て続けに発刊しています。新しい作品・作品集に触れられるということで一ファンの私としては満足だったりします。

コメント・トラックバック

No comments yet.

Sorry, the comment form is closed at this time.